「OpenAI 12 Days」から考える 2025年のエンタープライズAI戦略AIビジネスのプロ 三澤博士がチェック 今週の注目論文

OpenAIは2024年12月にイベント「Open AI 12 Days」を開催しました。新たなサービスと生成AI関連の技術が発表されたが、これらの変化は具体的にどのような投資機会を生み出すのでしょうか?

» 2025年01月08日 10時00分 公開
[三澤瑠花日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ]

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この連載について

AIやデータ分析の分野では、毎日のように新しい技術やサービスが登場している。その中にはビジネスに役立つものも、根底をひっくり返すほどのものも存在する。本連載では、ITサービス企業・日本TCSの「AIラボ」で所長を務める三澤瑠花氏が、データ分析や生成AIの分野で注目されている最新論文や企業発表をビジネス視点から紹介する。

 OpenAIは2024年12月にイベント「Open AI 12 Days」を開催しました。高性能推論モデル「o1」と新プラン「ChatGPT Pro」の発表に始まり、Reinforcement Fine-Tuning(強化学習ファインチューニング)の導入、動画生成AI「Sora」の一般提供、次世代モデル「o3」と「o3-mini」のプレビューまで、重要な発表が相次ぎました。

 コスト面での大きな変化として、月額200ドルの「ChatGPT Pro」プランの導入とWeb検索機能の無料化が挙げられます。また、「WhatsApp」やフリーダイヤルを通じたアクセス方法を提供することで、AIの利用をより身近なものにしています。

 プラットフォーム戦略の観点では、AppleのiOSやiPadOS、macOSとの統合が注目を集めています。現時点では日本語に対応していないものの、この統合は業務アプリケーションとAIの連携における大きな可能性を示唆しています。

 さらに重要なのは、2つの異なるモデルカスタマイズ手法の導入です。特定のタスクに特化したカスタマイズを可能にする「強化学習ファインチューニング」(Reinforcement Fine-Tuning)と、主観的な判断が必要な領域での調整を可能にする「選好ファインチューニング」(Preference Fine-Tuning)は、企業のAI活用に新たな選択肢を提供します。これらの変化は、具体的にどのような投資機会を生み出すのでしょうか?

OpenAIのモデルカスタマイズ、何をどう使うと効果的か

 最新の推論モデル群は企業のAI活用に新たな可能性をもたらします。「o1」は高度な数学問題(AIME)での正答率が42.0%から79.2%へと飛躍的に向上し、ソフトウェアエンジニアリング(SWE-bench)でも41.3%から48.9%という精度を達成しました。さらに、イベント最終日に発表された「o3」は、AIMEで96.7%、SWE-benchで71.7%という驚異的な性能を示し、AIの実用性が新たな段階に入ることを示唆しています。「o3-mini」と合わせて、企業での活用の幅がさらに広がることが期待されています。

photo 図1:o1 previewと今回発表されたo1、今後展開されるo3の性能(左図:AIME、右図:SWE)https://www.youtube.com/live/SKBG1sqdyIU?si=CKDdfdVSh3DS_MBBより引用

 モデルカスタマイズの観点では、2つの異なるファインチューニング手法が重要な意味を持ちます。強化学習ファインチューニングは、高品質な参照回答を使って特定の領域でモデルの精度を向上させる技術です。法律や保険、医療など、専門家の間で正解が明確になっている分野での活用を想定しています。一方、選好ファインチューニングは、2つの回答のうちどちらが望ましいかを比較しながらモデルを調整する手法です。主観的な判断が必要な領域でモデルのカスタマイズを可能にします。

 例えば、財務分析や法務文書の処理など、客観的な正解が存在する領域では強化学習ファインチューニングが適しています。一方、カスタマーサービスや創造的な文章作成など、トーンやスタイルが重要な領域では選好ファインチューニングが効果的です。

 ちなみに動画生成AI「Sora」は、プラン別に明確な差別化が図られています。ChatGPT Plusユーザーは720p・5秒の動画を月50本まで、Proユーザーは1080p・20秒の動画を月500本まで生成可能です。セキュリティ面では、生成された動画のSora製である識別機能や、不適切コンテンツのブロック機能が実装されています。

三澤の“目” 2025年のAI投資

 2025年のAI投資においては以下の視点が特に重要となります。

 まず、モデル選択とカスタマイズ戦略の策定です。現在利用可能な「o1」と、将来的な「o3」シリーズの活用を見据えた計画が必要です。特に、業務特性に応じた適切なファインチューニング手法の選択が重要になります。もちろんファインチューニングをしないという判断もあり得ます。

 プラットフォーム選択の観点では、Apple製品との統合に向けた準備が重要です。日本語対応後の展開を見据え、既存システムとの連携計画を立てる必要があります。また、WhatsAppやフリーダイヤルとの統合による新しい顧客接点手法を日本で展開することを見越して準備してもよいかもしれません。

 コスト最適化の面では、ChatGPT ProとPlusの使い分けが重要になります。Web検索機能の無料化により、基本的な情報アクセスのコストは低減されましたが、Soraなどの高度な機能の利用には適切なプラン選択が必要です。

 投資判断において最も重要なのは、短期的な効率化と中長期的な競争力強化のバランスです。特に、モデルカスタマイズへの投資は長期的な競争優位性構築の観点から慎重な評価が必要です。これらの新機能と手法は確かに魅力的な可能性を提示していますが、各企業の状況に応じた慎重な検討と明確な優先順位付けが成功の鍵となります。

著者紹介 三澤瑠花(日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ)

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AIセンターオブエクセレンス本部 AIラボ ヘッド

日本女子大学卒業、東京学芸大学大学院修士課程修了(天文学) フランス国立科学研究センター・トゥールーズ第3大学大学院 博士課程修了(宇宙物理学)。

2016年入社。「AIラボ」のトップとして、顧客向けにAIモデルの開発や保守、コンサルティングなどを担当している。

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